2025年3月  1.人身取引

 今、ミャンマーとタイの国境地帯が特殊詐欺の拠点となっていて、国際的な犯罪組織によって犯罪行為に加担させられている外国人は1万人にも上るとされ、世界に衝撃を与えています。偽の求人情報や甘い誘い言葉で巧妙に接近して安心させ、態度を豹変させて身体的に拘束し、自由と逃亡手段を奪って国際的な犯罪組織に売り渡すといった人身取引が、現在も行われている事実に心が痛みます。海外での出来事ばかりではありません。日本でも、人身取引の犠牲となった東南アジア出身者、特に女性が、自由を拘束されて性的サービスを強要させられるなどの犯罪が、後を絶ちません。
 人身取引とは、「国際的な犯罪組織の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」(通称:人身取引議定書)第3条において定義されています。その第1項には「『人身取引』とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める」とあります。
 SNSなどを用いて、仕事を探したり冒険を求めたりしている若者をだまして拉致し、取引の材料とする場合が増加していますが、人身売買の背景には、家族の崩壊とその大きな原因のひとつである貧困があることを忘れてはなりません。日本でも大正時代に、貧困家庭の子女が10歳前後の年齢で売られて、シンガポールや北ボルネオのサンダカンなどで娼婦として働かされた「からゆきさん」については、まさに家庭崩壊と貧困が要因であったとされています。今日でも同様の行いが、フィリピンのミンダナオ島南部などで営まれている事実を、しっかりと認識しておくことが求められます。
 教皇の意向は「危機に瀕する家族」です。自分の子を売ってしまわなければ、家族の生活が維持できない、つまり食べることができないまでに困窮した家庭では子どもに対する虐待が日常化しているといった報告もあります。
 基本的人権をはく奪された人身取引の犠牲者のために祈り、家庭の平和を祈り、そして貧困をもたらす経済格差の是正を願う一週間といたしましょう。