2025年12月 1. 中東の宗教事情
教皇は、「紛争地域のキリスト者」を意向に掲げて、「特に中東で暮らすキリスト者」が果たす役割について、世界中での祈りによって支えるようにと、私たちを招いています。
今の中東では、イスラエルとイスラム組織ハマスの間での停戦が発効されたにもかかわらず、一部で戦闘が継続され、民間人を含む多くのいのちが日々奪われていますが、その背景には、複雑にからみあった中東の歴史と宗教の存在があります。ここでは、中東の宗教事情を概観することにいたしましょう。
中東とは、アフガニスタンからイラン、トルコ、アラビア半島、アフリカ北西部に広がる地域のことで、明確にその範囲は定義されていません。日本の外務省は、アフリカ諸国を除く15か国とパレスチナを中東として位置づけています。ペルシャ湾に注ぐティグリス川とユーフラテス川の流域と、ナイル川の河口地域は、いずれも四大文明の発祥の地であり、また交通の要所であることから、歴史の中で様々な人種や国家が覇権を争ったことから、戦争や紛争の絶えない地域でもありました。
この地の宗教は、およそ90%がイスラム教徒で、キリスト教徒、ユダヤ教徒が少数、その他独自の背景を持つ伝統的な宗教の信徒がわずかばかり存在しています。そして、イスラム教を国教としている国々が多いのが特徴といえるでしょう。ただし、その分布に特徴があります。イスラエルではユダヤ教徒が70%以上を占め、そしてレバノンではキリスト教徒が約50%を占めています。この宗教分布の偏在が紛争の火種となっているともいわれています。
周知のことですが、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教の三つの宗教は、共通の祖アブラハムに由来する一神教で、同種の聖典をもつものとして「聖典の民」(啓典の民)と呼ばれています。ところが、ユダヤ教のイスラエルと、パレスチナのイスラム原理主義政治集団であるハマスが、武力衝突して互いに殺し合いをしている現実があります。
因みに、イスラエルのユダヤ教徒は約630万人ですが、アメリカ合衆国には約570万人がいます。ですから、イスラエルの政府に対して批判的な姿勢を打ち出せないという事情があり、このことが中東の紛争解決を難しくしている背景にあることも理解しておくことが肝要でしょう。
いずれの宗教を信じる者も、心から平和を祈り願っています。教皇の意向にある通り、この対立の外にいる「キリスト者が、平和、和解、希望の種となることができますように」と祈り、一日も早い紛争の終結を願う一週間といたしましょう。

